忘愛症候群
ゼロから


いつも通りの二度寝からのちゃんと起きて準備して7時半くらいには家を出て学校へと足を進める。



学校の行き方も忘れてない。
すれ違う人も見たことある。



おはようございますと挨拶をする先生たちも覚えてる。

クラスだって、クラスメートだって誰1人として忘れてなんかいない…だけど。



「愛、おはよ」

「あ…おはよ、一真くん」



やっぱり一真くんの事だけは知らない。

ちょっと来て、と腕を引かれ人気の少ない非常階段に連れて行かれた。



腕から彼の手が離れて向かい合うと一真くんは、澄んだ強い瞳であたしを見据える。


ただ、何も言うことなくただ見つめ合う。


私は片方の手で一真くんに掴まれた腕をぎゅっと握った。


心臓が五月蝿く脈を打つ。


お願いだから静まってよ、一真くんにドキドキしてるのがばれたらあたし恥ずか死ぬ。



「愛」

「ふぇ?あ、はい」




気を抜いていたから名前を呼ばれた瞬間、腕を掴まれた時よりもドキンと大きく揺れた。

しかも変な言葉を発して一真くんに笑われてる…やばい、軽く死ねる。



「ふっ…はははっ、くくっ…あはは!やばッ」

「もう、笑わないでよっ」



一真くんさすがに笑いすぎだって。



「悪い悪い、だって愛硬いから。あー、でさ」

「何?」

「一真って呼んで」

「え?なんで…」

「今までそう呼ばれてたから。“一真くん”て呼んだらお仕置きな?」



いや、一真って呼ぶことも恥ずかしいしお仕置きされるのも絶対嫌だから。


ていうかお仕置きって言い方エロくない?

なんか一真くんの言い方がちょっとえっちに聞こえてしまうのは気のせい?それともあたしの耳が可笑しいからそう聞こえるの?




白い目で一真くんを見ると笑いながら冗談だと言ってるけど何か信用できない。


だって本当にお仕置きをしてきそうだから。




「お仕置きしないから一真って呼ぶこと。分かった?」

「努力する」

「んー努力かぁ。一真って呼ばれねぇと違和感あるし周りも変に思う。だから絶対呼ぶこと」




確かに一真くん…一真の言うことも一理ある。


皆はあたしが一真のことを忘れてるのを知らないから「一真くん」なんて呼んでるの見たら気持ち悪いかもしれない。


くん付けしないように意識してよばないとな。


一真、一真、一真。




「一真」

「……っ」

「これでいいわけ?」

「あー…うん、そう」



一真はそう返事して頭をガシガシと掻いて俯いてしまった。

しかも何故か耳が赤い。
熱あるの?


まさか…照れてるわけじゃ、ないよね?



「どうしたの?えっと、大丈夫?」

「いや…色んな意味で大丈夫じゃない」




大丈夫じゃないって、これは大変だ。
そうだ、保健室。保健室に行こう。


「急に言うとか反則だろ」なんて訳の分からないことを言っているのは多分熱でやられてるせいだろう。

保健室に連れていくべく、今度はあたしが手を引けば「どこ行くんだよ」て問われた。


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