契約結婚ですが、極上パイロットの溺愛が始まりました


 ここで契約を交わした日、自宅に帰ってからぼんやりといろいろなことをひとり考えてしまった。

 私は、一体なんのために桐生さんと契約結婚なんかしたのだろう……と。

 よくよく考えてみたら、お願いされてそこまで深く悩むことなく契約書に判を押してしまっていた。

 桐生さんには、周囲に結婚したということをアピールするという目的がある。

 だけど、私には……?

 それを真剣に考えてみると、契約をしてもいいと、流されてみてもいいと思ったのは、佑杏から言われた言葉が胸の中にずっと居座り続けていたからだと思い当たった。


『誰かと一緒にいて感じる幸せっていうのも、悪くないよって』


 契約結婚という、お互いに気持ちのないそんな始まりでも、もしかしたら少しはそんな幸せを知ることができるかもしれないと、頭のどこか片隅で無意識に思っていたのかもしれない。

 だけど、それは夢想でしかなかったと、この間の桐生さんを見ていて確信した。

 そんなもの、この契約結婚には存在しないのだと。

 判を押したあとに気付いてももう遅いわけで、今に至っているのだけど……。

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