もしも世界が終わるなら
まぶしい思い出

「私、あなたが思うような人間じゃないんです」

 言い寄ってくる男性にそう告げると、大抵最初は『謙虚な女性だな』と好感触な態度を取られる。

「母子家庭で、父親は誰だか定かじゃありませんし、親族にもしかしたら殺人犯がいるかもしれません」

 こう続けると見る見るうちに表情は固くなり、顔を引きつらせる。

「冗談が過ぎる」

 そう笑い飛ばすくせに、そこからパタリと誘いは来なくなる。それでいい。私自身、自分が何者かわからないのだから。

 なにも毎日をこんなに擦れた思いで過ごしているわけではない。私、 倉持(くらもち) 千生(ちなり)にも忘れられずに浸っていたくなる思い出がある。

 電車に揺られながら、記憶の奥底に眠る懐かしい風景を呼び起こす。
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