もしも世界が終わるなら
あの場所へ

 ビルや家々が次第に少なくなっていくにつれ、元々少なかった乗客も減っていく。

 新幹線から快速列車に乗り換え、そのあとは鈍行列車。進む速度が遅くなるのと比例して、時間の流れもゆったりと進む。

 灰色がかっていた風景は、緑豊かな自然へと変貌を見せ目に優しく映る。

 古びたブレーキ音をさせ、列車は最終駅に停まる。一両編成の単線の鉄道は、かろうじて今も変わらず運行している。田舎の貴重な足として、今もなお残っている姿は感慨深い気持ちになる。

 ここならば、変わらないものが見つかるのでは。そんな淡い期待と不安を胸に、列車を降りた。

 最終駅の周りにはのどかな田園風景が広がり、ここからバスに乗り山深くなっていくと、土地の傾斜に合わせ平たい田んぼから棚田へと変化していく。

 今の時期は、緑のあぜ道に区切られた黄金の絨毯が風にはためくようだ。

 懐かしいこの風景を見なくなって、二十年近く。両親の離婚で離れることになり、それ以来ぶり。突然の離婚。心構えのない別離。離婚は仕方がないとして、何故あんなにも急だったのか。

 心の引っ掛かりが、殊更に忘れられない思い出として刻まれている。約束や郷愁に駆られこの地を訪れただけではない、どこか得体の知れない恐怖に吸い寄せられるような。
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