王女ちゃんの執事4『ほ・eye』王女さんの、ひとみ。

4『ご機嫌な貴婦人』

 ふと上げた視線で見つけたひとの姿に、あわてて確かめた腕時計は午後2時10分。
 虎の情報ではまだ退勤時間じゃないはずだ。
 ロータリーを出入りする人のなかを、ベージュ色のコートのすそを跳ね上げて走ってくる人。
 あわてたおれが立ち上がりかけると
「ぁ、ぁ、ぁ、そのままそのまま」
 平泉さんはぶんぶん手を振りながら息を切らせて近づいてきた。
 それでも大事な男のプライド。
 腹筋に力をこめてスクワットから立ち上がってお出迎え。
「さっきはごめんなさい。おれ、加藤って言います。そこの高校の3年です」
「あの、あの、そこの店でビジータイムだけパートで働いてます。平泉です。40歳です」
「――――ぅっそ」
 おふくろと5つしか違わねぇの?
 ギョーテン。…ってか、このひとも天然ちゃんか。
「女の人が、わざわざいいですよ、トシなんて」
 思わず笑ってしまったおれに平泉さんも笑った。
「だって。3年生とか言われたから、あたしも…って。つられちゃった」
 照れたように笑うひとの顔がなぜ一瞬で寂しく曇るのか。
 おれには町田の能力はない。わからない。
 でも自分がなぜ今ここにいるのかはわかっているから。
 すでに知っていることを隠す罪悪感でいっぱいになりながら
「あの…、退勤時間…2時だった、です?」
 それだけはきっちり確かめたい。
「あ!」
 たぶん、おれの気持ちをきちんと受け取ってくれたんだろう。
 平泉さんは、こくこくとうなづいた。
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