昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
螺旋階段を駆け上がり、デッキに向かうが、異変を感じて顔をしかめた。
 ……焦げ臭い匂いがする。
 なにかが燃えている? いったいなにが?
 そんな疑問が頭を過った時、デッキの方から凛の声が微かに聞こえた。
「火事よ! みんな逃げて!」
 火事?
 気のせいかと思ったが、また彼女の声がする。
「お願い、みんな早く逃げて!」
 小さな声だが確かに凛の声だ。
 足を速めてデッキに行くと、今度ははっきり彼女の声が聞こえた。
「みんな逃げてー!」
 船尾のマストが倒れて燃えていて、周辺はその炎で赤く染まっている。
 近くには橋本清十郎がいてギッと歯軋りした。
この状況、彼がこの火事に深く関わっているに違いない。
 だが、最悪なことに燃えているマストの奥に凛がいてハッとする。
「凛!」
 叫ぶ俺に気付いて彼女は必死に声を張り上げた。
「た、鷹政さん、逃げて! ……ゴホッ」
 マズい。このままでは凛も焼け死ぬ。
 それに、この火の勢い……乗客全員の命も危ない。
< 220 / 260 >

この作品をシェア

pagetop