昭和懐妊娶られ婚【元号旦那様シリーズ昭和編】
 一緒に来ていた伊織たちに命じた。
「伊織は消火の準備を、右京は客を小型艇で避難させろ!」
 一刻の猶予もない。凛は俺が助ける。
 そばのテーブルのシャンパンクーラーの水を被り、凛のもとへ行こうとしたら、彼女がそんな俺を見て懇願するように叫んだ。
「鷹政さん、逃げて!」
 怖いくせに彼女はこんな時も人の心配ばかり。
〝お前を置いて逃げるわけがないだろ〟と凛に言い返そうとしたら、橋本清十郎が俺に向かって叫んだ。
「凛ちゃんは諦めろ! お前まで死ぬぞ!」
 その言葉に怒りが込み上げてきた。
「だから? 凛は絶対に死なせない!」
 彼女を助けるためなら、自分の命なんて惜しくない。
 凛を守るためなら火の中にだって飛び込む。
 火なんか怖くない。
 怖いのは彼女を失うことだ。
 橋本清十郎の部下が「清十郎さま、お早く」と彼を呼ぶのが聞こえたが、今の俺にはもう凛しか見えなかった。今は橋本清十郎なんかどうでもいい。
 必ず凛を助ける。
「鷹政さん、逃げて! あなたも死んじゃう!」
 
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