囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
5話「妖精、片想いをする」
 


 
   5話「妖精、片想いをする」




   ☆☆☆



 この世界の夜も、元の世界と同じように空には星たちが輝いており、月明かりが地上を照らしていた。違うのは、栄えている街であっても星が沢山見えることだけかもしれない。
ラファエルの城は高台に建っていた、そのため城下町や人々が住んでいる住宅が一望できた。そこから暮らしを感じる優しい光が灯っているのはわかるが、朱栞が毎晩歩いていた街のように眩しすぎるほどのネオンはない。自然の力で、魔法で灯った明かりは温かく感じられる。そう思いながら、ラファエルがつけてくれたランプの火を消した。
 ベット横にあるランプだけはつけたまま、朱栞はベットに横になった。


 少し前に、先程料理を運んできてくれたメイドの女性が、朱栞をお風呂場に案内してくれた。
 体や髪を洗う手伝いをさせていただきます、と申し出てくれたが、朱栞は「恥ずかしい」という理由で丁重にお断りした。初めて会った時は、とても冷たい視線を感じた彼女だが、この時はとてもにこやかで優しかった。先ほど「怖い」と感じたのは気のせいだったのだろうか、と朱栞は不思議に思った。

 城内の風呂場は、とても広い空間に作られていた。大理石のような白い石が敷き詰められてる浴室内。お湯は溜めてあるだけだったが、そのお湯は冷める事はなかった。きっと魔法で管理されているのだろう。この国の仕組みはわからないことだからけだな、と朱栞は改めて思った。
 お風呂場でゆったりと体を温めることが出来たので、朱栞はベットでリラックスすることが出来ていた。
 朱栞は、ベットの中でラファエルから渡された本を見つめた。


 「本当にシャレブレ国に来ちゃったんだ」


 元の世界のものはこの本だけだ。

 勝手に仕事を休んでしまったし、異世界に転移したとわかったら騒がれるだろうな、と思った。元の世界の家族や友人、職場の仲間。その人たちを思い浮かべると、思わず涙が浮かぶ。
 もう会えないのだろう。ラファエルは10年ほど戻った人はいないと教えてくれたのだ。気軽に帰れるものではないようだ。
 けれど、このシャレブレ国に転移した理由は何だろうか。
 そう考えた時に、朱栞は穂純への気持ちが選ばれた理由ではないか。そんな風に思った。


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