その行為は秘匿
田中は、朱里が死ぬことを知っていた。いや、知っていたんじゃない。
これは、自殺に見せかけた殺人事件だ。
方法はまだ分からないが、考えてみると自殺では無いと考えがついた。
しかしどうやって…。
朱里は、おそらく田中から処方された薬を大量に服用して死んだ。
いや、大量というのがまず違うのかもしれない。
朱里が飲んだ薬は一体なんだったのか。
私は、それを調べてみることにした。

主に処方される薬は、SSRIと抗不安薬の2種類だということは分かっていたが、それを朱里が飲んでいたかどうかは分からない。
他にも彼女は精神的な病気を持っていた。鬱病、パーソナリティー障害、摂食障害。
その病気の薬の中に、死に追いやるほど強力なものがあったということなのか。
早速、ネットで検索してみる。
調べてみたところ、鬱病の薬の過剰服薬の死亡例などが確認されていることがわかった。
田中は、朱里に普通では処方しない量の薬を与えてそれを飲ませ、死に追いやった。
話を親身になって聞いてくれた精神科の先生をたいそう朱里は信頼していたことだろう。
それなら、明らかに多い量の薬を処方しても飲んでしまうことだって、ありえない話ではない。
いや、しかし普段と明らかに薬の量に差があったなら、朱里が田部先生になんとなく話してしまうかもしれない。それに先生が疑問を抱いた場合、いろいろとめんどくさいことになりかねない。
「最初から、精神病の薬ではなかった…。」
服毒という言葉が頭をよぎった。
酒とともに服用し、眠りにつくように死ぬことができる、成功すれば理想の自殺方法。
その薬なら、大量服薬しなくても、少しの量で死に至る可能性がある。
田中はそれを朱里に処方して、飲ませた。
そして、殺したんだ。

「もしもし郁弥、明日また病院に行ける?」
『急にどうしたんだよ、なんか掴んだのか?』
「ほとんどの真相を突き止めたの。後は、田中に本当の事を吐き出させる。」
『いや、でも待て。まだ目撃者が誰なのか分かっていない。もしかしたら、なにか関係があるかもだろ。』
すっかり忘れていた。この事件を唯一見ている目撃者のことを。
「やばい、それは頭になかった…。」
『とりあえず、明日学校で話そう。目撃者を特定してから、病院に行くのはその後だ。』
「わかった。遅くにごめん。」
『全然、じゃあまた。おやすみ』
「うん、おやすみ。」
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