イノセント ~意地悪御曹司と意固地な彼女の恋の行方~

不思議な女

小川萌夏。
同い年の23歳で、大学生のフリーター。

「何でこんなことになったんだか・・・」

ガックリと肩を落とし、遥はソファーに倒れこんだ。


社会人になったのを機に一人暮らしを始めたマンション。
実家からの距離よりも会社に近い利便性でここを選んだ。
母さんもばあさんも家を出て暮らすことに賛成ではなかったが、強引に押し切った。
「一度くらい一人暮らしがしてみたいんだ」と言えば、強く反対されることもない。2人とも遥には甘いんだ。
住むのはもちろんうちの管理している物件で、父さんが所有しているマンションだから家賃なんて払ってはいない。
これからここで一人暮らしを満喫するはずだったのに、何で同居なんて提案したんだろう。

普段なら、感情で言葉を口にするタイプではない。
会社の経営者として、上に立つ人間として、本心を覆い隠すすべを身に着けてきたつもりだった。
でも、あいつには通用しなかった。

自分が困っても仲間のために立ち向かっていく無鉄砲さと、おふくろさんの形見を質に入れなくてはならなくなっても意地を張り続ける頑固さに呆れた。
落ちた肉を平気で食べるくせに、ありあわせの材料手際よくで料理する姿に驚かされた。
何よりも、高級焼き肉をおごられても、左ハンドルの車に乗せられても、都心の高層マンションの最上階にやってきても、遥のことを探ろうとしないことが意外だった
普通なら、何者かって聞くだろうし、仕事は何かって聞くはずだろう。
でも、彼女からはそんな気配が微塵もない。

「小川萌夏かぁ」
不思議な子だ。
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