イノセント ~意地悪御曹司と意固地な彼女の恋の行方~
「いただきます」
きちんと手を合わせ口にした萌夏を、遥は不思議そうに見た。

「ごめんなさい。実家がお寺だったものだから食事のマナーに厳しくて、友達と食べていても時々笑われるの」

萌夏の父はお寺の住職だった。
だからってわけではないけれど、行儀とかマナーにはうるさかった。
母は萌夏が生まれてすぐになくなったため祖父母に育てられ、食べ物も和食が中心。
だからその反動で、パン屋でバイトがしたくなったのかもしれない。

「いや、いいと思うよ。俺の親父も普段は優しいくせに食べ物を粗末にすると怒る人だし」
「へえー」

遥のお父さんってどんな人だろう?
やっぱりかっこいいのかなあ。
親子だものね、似てるわよね。

「じゃあ、いただこう」
「はい」



遥は文句も言わず、すべての料理を食べてくれた。

「美味しかったよ、ご馳走様」
「お粗末様でした」

よかった、どうやら好き嫌いはないみたい。
食べ方もきれいだし、育ちの良さが垣間見える。

「これだけ料理ができるなら、家事サービスの回数を減らした方がいいかなあ?女性って、他人が家に入るのが嫌だろ?」

そもそもここは人の家なわけで、文句を言う筋合いではない。
でも、

「あなたが嫌でなかったら、私がいる間は家事をしますよ」
家賃も払わずに住まわせてもらうことに抵抗があったし、家事をさせてもらう方が気が楽になる。

「いいのか?」
「もちろん」

「じゃあ頼むよ」

どうやら交渉成立。
こうして萌夏と遥の共同生活が始まることになった。
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