冷徹ドクターに捨てられたはずが、赤ちゃんごと溺愛抱擁されています
第四章 家族のはじまり
第四章 家族のはじまり

 翔平が突然現れてから数日。毎日のごとく彼から連絡があり悠翔の様子をうかがう日々。彼がわたしたちと関わっていくと宣言したのはやはり本気だった。ただ……心の準備ってものができていないのだ。とくにわたしが……。

「ねぇ、また来たの? 二日連続じゃない」

「悪いか?」

 アパートの前のブロック塀にもたれていた翔平が、わたしと悠翔が帰ってきたのを見つけて近付いてきた。

「こんにちは!」

 悠翔は特に警戒することなく、にこにこと笑顔を浮かべている。普段から愛想がいいし、人見知りしないから歓迎しているように見える。しかも毎回お土産(みやげ)付きとなれば、当たり前だ。

「ほら、これ『どんぶり三銃士』だぞ」

 そう言いながら持っていた袋から取り出したのは、子供たちの永遠のあのパンのヒーローが悪い菌をやっつけるアニメに出てくる悠翔がお気に入りのキャラクターだ。

「どーん、どーん」

 テンションが上がって早く自転車から降ろしてくれと、催促される。わたしが自転車のベルトを外すと、すかさず翔平が悠翔を抱き上げた。

「約束通り買ってきたぞ」

「ありあとねぇ」

 悠翔はつたない口調で感謝を伝えた。それを受けた翔平は満面の笑みを浮かべて悠翔の頭を思い切り撫でた。

「お、えらいなぁ。ちゃんとお礼が言えるんだな。すごいな」

 褒められた悠翔は人形に夢中で、すでに翔平の言葉なんて聞いていない。それでも翔平は笑顔を浮かべたまま、自転車の前かごに入っていたわたしの荷物を持ってアパートの階段を上がる。

「ねえ、部屋はちょっと……」

「もうそろそろいいだろ。別に汚かろうが下着が干してあろうが気にしない。あ、男がいるのだけは勘弁な」

「な、なに言って、そんなはずないじゃない!」

 わたしが自転車を停めている間に、翔平はすでに部屋の前で待っていた。急いで扉の前に向かう。

「ねえ、本当に入るの?」

「なにをそんなに嫌がってるんだ? 理由を言えよ」
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