アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ

再会

「オルキデア、ここにいたのか」
「なんだ。クシャースラか」

濃い紫の瞳を向けられたクシャースラは、肩を竦めて小さく息を吐いた。

「なんだ、は無いだろう。半年ぶりの再会だというのに」
「もう、そんなに時間が経ったのか。あまり気にしていなかったな」

窓辺に座って、外を眺める親友のオルキデアには、どこか哀愁が漂っていた。

「まだ、謀叛の疑いは解けないのか?」
「そうだな。どうも仕事も無く、代わり映えのしない生活が続くと、時間の感覚が無くなるようだ」

ラナンキュラスの屋敷の中は、しーんと静まり返っていた。
約一年と少し前までは、オルキデアと「彼女」の笑い声が屋敷中に響いていたというのに。

「なあ、オルキデア。おれは思うんだ。
お前は、その気になれば謀叛の疑いを解く事など容易いはずだ。
それなのに、なぜそれをしない?」
「必要ないからだ。軍が、国が、俺をそう思ったのなら、その通りなんだろう」
「お前さん自身はどう思っているんだ? 謀叛について」
「どうも考えてないさ。謀叛を起こす気などさらさらない」

外を見たまま、はっきりと断言するオルキデアに、クシャースラは訝しむ。

「それなら、なぜ『彼女』を帰した? 国に謀叛を起こして、最悪は自分の命だけで済むように、『彼女』を国に帰したんじゃないのか?」
「『彼女』は、元々国に帰すつもりだった。謀叛は関係ない」

オルキデアの言葉に、クシャースラの輝くような金髪の頭にかっと血が上った。
つかつかと歩み寄ると、親友の襟元を掴んで、壁に叩きつけたのだった。

「お前……! 自分が何を言っているのか、わかっているのか!?」
「……ああ」
「それなら! なぜ『彼女』と結婚した!? なぜ……『彼女』を抱いた!?」
「『契約』結婚をしたからな。俺たちは」

声を荒げながら、いくら身体を揺すっても、オルキデアは目さえ合わせてくれなかった。
いつも以上に生気のない目をして、虚空を見つめていたのだった。

「それなら、契約結婚のままでよかったはずだ!!
お前は契約結婚を一度解消した後に、『彼女』と結婚した!!
それは『彼女』を……心の底から愛していたからじゃないのか!? 」

「愛」という言葉に、オルキデアはビクリと震える。
その言葉に、親友がどれだけ苦しめられたのか、どれだけ辛い思いをしたのか、クシャースラは知っている。
けれども、オルキデアの親友として、クシャースラは言わなければならなかった。

「お前のその中途半端な『愛』に、『彼女』がどれだけ苦しめられたと思っている!?
一人で悩んで、苦しんで、頼る者もおらず、一人で国に帰されて……」
「仕方がないだろう!!」

とうとう、オルキデアは目を合わせると、襟元を掴むクシャースラの手を払い退けた。

「俺だって、『彼女』を愛していた。愛していたさ……!!
けれども、俺じゃ駄目だったんだ……。
謀叛の疑いをかけられた俺じゃ、彼女を幸せには出来ないんだ!!
彼女を俺たちの事情に巻き込むだけだった……。
彼女のためにも、国に返すしかなかったんだ……」

俯いて悲痛な声で話すオルキデアを、クシャースラはただ見ていることしか出来なかった。

親友が『彼女』を……一人の女性を愛して、こんなに苦しんでいたのに気づけなかった。
半年前、戦地に行っている間、この地に残す妻の身をお願いしようと、この屋敷に来た時に気づいていれば、こうはならなかったのだろうか。

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