初恋彼は甘い記憶を呼び起こす
5.初恋彼の変化
***

 あの雨の日から一週間経った現在、私は自他共に認める絶不調の状態に(おちい)っていた。
 どう調子が悪いのかと言えば集中力が続かないのだ。
 師走で仕事量が多く、迅速に終わらせなければいけないのに、なにをやっているのだろうと自分でも思う。

「篠宮さん!」

 仕事で外出していて会社に戻ろうとしているときに、駅の改札を出たところで声をかけられた。
 その方向に視線を向ければ、坂巻さんが右手を上げて合図をしながら走り寄ってきていた。

「坂巻さん、お疲れ様です」

 坂巻さんとはメッセージアプリで短いやり取りを続けていたけれど、こうして直に会話を交わすのは久しぶりだ。
 気まずさがあるのは否めないものの喧嘩をしたわけでもないので、不自然にならないように普通に接しなければと逆に肩に力が入りそうになった。

「お疲れ様。会社に戻るの?」

「はい」

「仕事、まだ忙しい? もうすぐクリスマスだから、ディナーに誘っちゃダメかな?」


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