初恋彼は甘い記憶を呼び起こす
 坂巻さんが笑って話しかけてくれて一旦はホッとしたが、自分の考えが非常に浅いことに気がついた。
 はっきりとさせなくても、時間の経過と共になんとなく元の関係に戻れるのではないかと、心のどこかにずるい思いを抱いていた自分が嫌になる。
 終わらせるならばきちんと伝えてケジメをつけなくてはいけない。
 
「すみません、私……」

 あやふやに不誠実な態度を取るのは失礼だ。
 意を決してうつむいていた顔を上げると、困ったような表情の坂巻さんと視線がぶつかる。

 こんなときにまで、やはりどことなく雰囲気が菊田くんに似ている……なんて思ってしまった。

「俺、嫌われた? なにがダメだったんだろ」

「嫌いじゃないですよ! それは違います」

 ふにゃりと微妙な笑みを浮かべる坂巻さんに対し、申し訳ない気持ちが一気にこみ上げてきた。
 坂巻さんが悪いわけではなく、私自身の問題なのに。

「坂巻さんは素敵な方です。私がダメなんですよ」

「そうかな?」

「思い切って流れに任せてみるとかそういうのも出来ないし……」

 眉尻を下げる私を見て、坂巻さんがさするように私の左肩に軽く触れた。

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