ペルソナ




薄暗い店内。
聞こえる下品な笑い声と怒鳴り声。
落ちて砕け、散らばるグラスのガラス片。
感じた痛み。





「っ!」





鈍痛と共に床に転がり、散らばったガラス片で手のひらを切ったのか鋭い痛みが走った。
直後、硬い靴に頭を踏みつけられる。
グリグリと煙草を踏み消すように、頭を踏みつける。





「弱いくせにイキってんじゃねぇよ」





「あっははは!カワイソウだから止めてやれよー」





頭を踏みつける男を周りにいる男が笑いながら止める。
止めているようには見えない。
それに、こんな奴らにカワイソウと言われるのは腹が立つ。
こんな奴らよりも自身が劣るのか、と。





「麻澄なんて女なんて覚えてねぇって言ってんだろ。売った女の名前なんていちいち覚えてねぇっての」





覚えていない?
あれだけ弄び、辱しめ、貶めたというのに。
俺の妹は自ら死を選ぶほど苦しんだというのに、この男は何も覚えていない?
ふざけている。





殴られ、蹴られを繰り返され、ぼろ雑巾のようになった俺は外へ放り出された。
まるで、ゴミのように。
外は冷たい雨が降っていた。
濡れた身体から体温が奪われていく。





「クソ……」





悔しかった。
妹の仇を討ちたいのに俺には力がない。
妹は今の俺のようにボロボロにされ、ゴミのように捨てられた。
妹なんかよりあいつらの方が余程ゴミのようだと言うのに。





ふと、雨が止んだ。
いや、違う。誰かが俺に傘を差したんだ。
その証拠に男物のスニーカーが視界に見えた。
誰だろうと顔を上げれば、不気味な仮面を着けた男がいた。





「《強欲と傲慢》」





「は?」





「仇を討ちたくないか?あいつが憎いんだろう?」






声は変えているのか、機械のように抑揚が無かった。
不気味だった。
でも、俺はこの不気味な男にすがるしかないと思った。
すがらなければ、仇を討つことは出来ないと思った。




警察は助けてくれない。
誰も助けてくれない。
助けてくれるのはこの男だけだ。
だから、俺は怪しいと思ってもすがった。





――ペルソナという男に。




< 23 / 122 >

この作品をシェア

pagetop