今さら本物の聖女といわれてももう遅い!妹に全てを奪われたので、隣国で自由に生きます

最後のチャンスですのよ?

私は王太子を見た。王太子は困惑しているようだった。先程まで怒りで顔を真っ赤にしていたのに、今はその勢いがそがれているようだ。

「殿下は私に、婚約者として何をしてくださいました?戯れに髪を引っ張り池に突き落とし、更にはその上に鯉の餌を巻き、ああ、そうそう。私のドレスをわざと踏んで転ばせようとしたこともありましたわね」

「そ、それは…………」

「それで、今更なんだと仰るの?」

私はパシッと片方の手に扇を叩きつけた。そして口元に弧を描いて彼を見る。きっと今の私の笑みは酷く歪なものだろう。ただただ綺麗なそれではない。

「笑止千万。笑わせないでくださいまし」

私はにっこりと笑いかけると、とんとん、と自分の手を扇で叩いた。王太子は驚きで何も言えないのか黙っている。ミレーヌに至っては信じられないものを見る目で私を見ていた。

「………婚約者がいる身でありながらほかの女にうつつを抜かし、まるで私をいないもののように扱った王太子殿下。ああ、気になさらないで?別にそれは構いませんの」

「ミレルダ……」

「殿下にそのように名を呼ばれる謂れはもうありませんの」

私と殿下は婚約破棄するのだから、名を呼ばれる言われはない。時間は限られている。これはさっさと言質を取るに限ると私は右手で扇を持ち、その先を左手で持ちながら彼を見た。
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