契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
意外な見合い相手
 見合いをすると父に告げた日の翌週の日曜日、渚はグランドホテルのラウンジにいた。
 二月にしては暖かい日の光が差し込む窓際の席で、少し緊張しながら音川を待っている。
 さすが都内きっての高級ホテル、公共の場ではあるものの、落ち着いた雰囲気で周りの話し声が気にならないほど席と席の間が離れている。
 これなら話を誰かに聞かれるようなことはないだろうと思い、渚は幾分安堵した。
 着ているのは、姉から借りた若草色のワンピース。普段の渚なら着ないデザインと色だが、見合いかどうかはともかくとしてホテルに相応しい服装としては正しいだろう。
 姉の千秋には事前に、渚の計画を話してあった。もともと音川と旧知の仲である千秋は自分から音川に話そうかと言ってくれた。
 でも渚はそれを丁重にお断りした。
 ただでさえ突拍子もない、人を馬鹿にしたようなお願いを誰かを介して伝えるなんて、いくら相手が音川でも、失礼だと思ったからだ。
 渚は少し緊張して、コーヒーをひと口飲んだ。
 これから自分は一世一代の賭けをする。
 優秀な弁護士である音川を、一緒に父親を騙してほしいと説得するのだ。
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