契約結婚のはずが、極上弁護士に愛妻指名されました
 自分の自由な未来のために。
 渚は深い深呼吸をひとつして、心を落ち着けようと目を閉じる。
 その時。

「佐々木さん」

 低い声に呼びかけられて渚はゆっくりと目を開く。いよいよこの時が来たと思いながら。
 だが渚の目に飛び込んできたのは、予想とはまったく違う人物だった。

「待たせてしまって、申し訳ない」

 その人物は渚を待たせたことを詫びながら渚の向かいのソファに座る。そしてウェイターを呼び、自分の分のコーヒーを頼んでから渚の方へ向き直った。

「随分と早かったんだね。私も余裕をもって来たつもりだったんだが」

 でも渚は彼の言葉に答えられない。
 目の前の人物が予想外すぎてそれどころではなかったからだ。
 唖然として固まってしまった渚に、目の前の男性……瀬名和臣が小さく首を傾げた。

「? 佐々木さん? どうかした?」
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