偽りの夫婦

偽夫婦

日付変わった頃のタワマンの前に一台の車が、ゆっくり止まる。

運転手・森井が、ドアを開けると出てきた男・神宮 紫龍。
｢お疲れ様でした、紫龍様｣
紫龍は首をコキッと鳴らし、片手を軽く上げた。

｢おかえりなさいませ、神宮様。
遅くまでお疲れ様です｣
とコンシェルジュに声をかけられ、
｢ん｣
と先程のように片手を上げ、エレベーターに向かった。
七台あるエレベーターの一番奥は、紫龍専用のエレベーター。
乗り込むと、何もせずとも自身の家まで運んでくれる。
エレベーター内で、妻・陽愛からのメールを開く。

【お仕事、遅くまでお疲れ様！ごめんなさい、どうしても眠いので、先に寝ます。おやすみなさい。陽愛】
そのメール画面をなぞった。
ちなみに、この妻からのおやすみメール。
今日一日で、十数個目のメールだ。

え…？と思ったと思うが、これは紫龍と陽愛の、夫婦の決まり事の一つなのだ。

その一つに、離れてる間はひとつひとつ行動する事に、メールで知らせる事とゆうのがある。
今日は紫龍が先に仕事に出たので、陽愛は行ってきますメールから、職場に着きましたメール、今から昼休みですのメール、今から帰りますメール、帰り着きましたメール……………
とにかく陽愛の行動全てに、メール連絡が必要なのだ。

紫龍がこんな束縛し、管理するのには理由がある。


陽愛には、記憶がない。
だから記憶を取り戻さないように、あるいは取り戻した時にすぐ対処できるように、連絡させているのだ。