偽りの夫婦
冷酷無慈悲
「なにがあったの?」
ソファーに陽愛を後ろから抱き締めて、座る。
後ろから陽愛の顔を覗き込むように、聞く。

「たいしたことはないんだけど、仕事で失敗しちゃって、落ち込んでるの……。
でも紫龍にこうして抱き締められるだけで、また頑張れる!ありがとう!」
「そう?じゃあずーっと、抱き締める!」
更に強く抱き締める、紫龍。

「ありがと!
………ねぇ、紫龍。
一緒に…お風呂入らない?」
「どうして?」
「香水…匂うから……。
この前、クラブから出てきた時と同じ匂いする。
だから、その匂い消したい……」
「わかった」

お互い身体を洗い合って、浴槽に浸かる。
「どう?匂い…消えた?」
「んー。うん!今度は私と同じ匂い…!
…って、当たり前か(笑)」
「よかった…
ごめんね…陽愛を傷つけたね……」
「大丈夫。それも仕事なんでしょ?接待とか…」
「まぁね…」

風呂から上がり、ベッドに横になる。
「陽愛?」
横になってすぐ…眠そうに目をトロンとさせている。
「ごめん…眠い……」
「陽愛…まだ愛し合……」
スースーと寝息をたてる、陽愛。
「………」
陽愛の口唇にキスしようとして、止める。
ここで口唇にキスすれば、きっと止まらない。
狂ったように、貪るだろう。

頬にキスをして、陽愛を腕枕した。
紫龍も眠りについた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
次の日、陽愛のショップにまどかがいた。
あんな警告を受けても、一目見てみたいと、会いたいと思ってしまうのが、人間。

少なくとも紫龍に想いを寄せていたまどかにとって、それは自然な感情だ。
まどかは、ショップに入った。
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