8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
「でも、私のようなものが姫の傍をウロチョロすれば、ご迷惑になります」

「それでいいのよ。どうせ、オスニエル様はあんな娘に興味はないのだもの。国のために仕方なく迎え入れただけよ。オスニエル様のためにも、彼女はここから出ていくべきなのよ」

 とりあえず、この女性がフィオナの敵であることは認識できた。これをどう利用しようか、トラヴィスは笑顔の裏で考えを巡らせた。

「つまり、侯爵令嬢はフィオナ様を追い出したいのですね?」

「そういうことよ。なにか失態をさせて追い出そうかと思ったけれど、あの女、いつの間にか国政にまで入り込んでいるのだもの。そっちでは難しいわ。でもあなたとのスキャンダルが勃発すれば簡単だわ。ね。彼女を誘惑してちょうだい」

 簡単に言いやがる、と内心でトラヴィスは思う。

「フィオナ様は、国のために王太子様に嫁いたのだとはっきりおっしゃっております。彼女の意志は固く、私などの思いには頷いていただけないでしょう」

 実際、フィオナには断られたばかりだ。

「全く弱気ね。そんなことじゃ一国の王女が手に入るわけがないでしょう」

 ジェマはドレスの隠しから小瓶をふたつ取り出した。一本が白い瓶、もう一本が茶色の瓶だ。

「いいものがあるの。これがあれば、あなたたちの駆け落ちを手助けすることができるわ。こっちの白い瓶が仮死状態を作り出す薬。まる一日発熱したのち、仮死状態になる。それから三日目までにこの解毒剤を飲ませれば、意識が戻るそうよ。人が最も集まるとき、そうね、陛下の生誕祭の日に彼女にこれを飲ませるから、あなた、仮死状態のうちに彼女を攫ってお行きなさい」

「こんな物騒な薬……どこから?」

「世の中正しいことだけでは回らないのよ。国土を広げていけば、怪しげな国も吸収することになる。物事の表だけ見ているオスニエル様は気づいていないかもしれないけれど、人道に反するようなものを売っている闇市は国土が広がるたびに発達しているの」

 空恐ろしいことを平気な顔で言う女だ。トラヴィスはぞっとする。そこまでフィオナが邪魔だというのか。女ひとりでそんな場所にはいけないだろうから、おそらく彼女の父親も絡んでいるのだろう。

 トラヴィスはしばし考えた。
 フィオナの意志を尊重してここに残したとしたら、彼女はやがて、正妃となったジェマにいじめられるだろう。下手をすれば、殺されてしまうかもしれない。

(だったら、本人の意志とは違っても、さらった方がなんぼかマシだ)

 トラヴィスの中で、結論が出る。

「分かりました。やります」

「陛下の生誕祭の日は、人の出入りが多く、側妃が倒れたところで、後宮に追いやられるだけよ。警備の一員であるあなたなら隙をついて忍び込むこともできるでしょう。私が、彼女が薬を飲むように仕込んでおくわ」

「ですが、オスニエル様が」

「オスニエル様の相手は私がしているから、生誕祭の間は誰も彼女になんて構わないわ」

「……侯爵令嬢の仰せのままに」

 トラヴィスは恭しく頭を下げた。
< 107 / 158 >

この作品をシェア

pagetop