8度目の人生、嫌われていたはずの王太子殿下の溺愛ルートにはまりました~お飾り側妃なのでどうぞお構いなく~
「見てたわ。さっき、あなた、あの側妃と話していたでしょう? 知り合いなの?」

 ごまかすことは許さない、と強い視線が言っている。トラヴィスは少し考え、無難な過去を捏造した。

「実は、昔馴染みなのです。私は十歳までブライト王国におりまして。フィオナ姫がこちらに輿入れされたことを知り、ご挨拶させていただいたのです」

「あら、そうなの。もうすこしただならぬ関係に見えたけれど」

 ジェマの瞳はぎらついている。あきらかにフィオナを蹴落とすための材料を探しているようだ。
 トラヴィスはこいつが正妃候補かとアタリを付けた。
 フィオナが側妃どまりである以上、王太子は必ずいつかは正妃を娶る。侯爵令嬢という立場からも、おそらく彼女が適任なのだろう。

「……どういう意味でしょう?」

「あなた、彼女が好きなんじゃないの?」

「ええ。ですが叶わぬ想いです。初恋の君に再会し、舞い上がってしまいました」

 トラヴィスは、切なげに顔を歪めた。もちろん演技だが、心情的にはまるきり嘘というわけでもない。
 ジェマはにやりと口端を歪め、「私、協力してあげても良くてよ」と悪い笑みを浮かべた。
 トラヴィスにとってもこれはチャンスだ。フィオナはここにいるというけれど、彼女が女として愛されることもないまま、一生ここに閉じ込められるなど、我慢ならない。

「協力とは?」

 トラヴィスはすがるような表情を取り繕い、ジェマを見つめる。恋に溺れた愚かな男に見えるように。
 ジェマはますますうれしそうに、前のめりになった。

「あなたがあの子に会えるように取り計らってあげるわ。門番じゃ、彼女に会うことすらできないでしょう」

 どうやら交渉を持ち掛けてきたようだ。高慢ちきな女の目的が何なのか、トラヴィスはじっくりと観察する。
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