婚約者に売られたドン底聖女ですが敵国王子のお飾り側妃はじめました
ニ章 側室
 レナートの城で暮らしはじめて一週間が過ぎた。が、オディーリアははやくも退屈していた。
私室として与えられた部屋の、美しい天井絵画を眺めるくらいしかすることがないのだ。

(妻と言っても形だけで仕事があるわけじゃないし……使用人として使ってもらえないかしら)

 〈白い声〉を失くしてしまったから大した貢献はできないけれど、オディーリアは平民の生まれだ。家事や炊事、馬の世話などの雑事は一通りこなせる。

 そんなことを考えていると、タイミングよく部屋の扉がノックされレナートが現れた。

「レナート……殿下?」

 彼をなんと呼んだらいいのか、いまだにわからない。レナートは、くくっと腹を抱えて笑っている。

「レナートでいい。ーー俺達は夫婦なんだしな」

 からかうような口調で言って、彼はオディーリアの顔をのぞきこむ。その瞳はいたずらっぽく輝いていた。オディーリアはたまらず目を逸らした。彼のこういう冗談は反応に困る。
 そっぽを向いてしまった彼女の頭を、レナートはぽんぽんと優しく叩いた。

「この城には若い女がいないから、なにかと不便だろう。お前の世話係にと、新しい女性に来てもらうことになった」
「えっ?」

 オディーリアはくるりとレナートを振り返る。自分の世話しかすることがなくて退屈しきっているのに、世話係なんてついてもらったらますますやることがなくなってしまう。
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