まだ、青く。
#5 ここにいたいんです。
「鈴、忘れ物はない?」

「うん、大丈夫。3回も確認したから」

「なら、大丈夫かな。昔から鈴は何かしら忘れ物するから心配なのよね」

「大丈夫。もう高校生だし」

「そうね。...そうよね」


不安げな顔をする母に私は必死に笑顔を作って"大丈夫"アピールをした。

心配性な母は今月末で17歳になる娘に対して保育園のお泊まり会の時と同じ言葉を並べている。

いつまでも親にとって子供は子供のままらしく、ちっとも大人扱いしてもらえない。

でも、きっと私にとってはそれだけじゃないんだけど。


「お~い、鈴。酔い止め薬飲んだ?」


2階の自分の部屋から勢い良く飛び出して来たのは渉。

ちなみに昨日残業だった父はまだ布団の中だ。


「渉に言われなくてももう飲んでるよ」

「帰りの分は?」

「ちゃんと持ったよ。2人とも心配し過ぎ」

「いやだって鈴には前科があるから」

「ね~」


こんな感じで2人に心配されながらも、私は家を出て学校に向かった。

今日は待ちに待った合宿...

のはずだったんだけど、

胸がドキドキしないのは

きっとあの日を引きずっているから。

何をされたわけでも

何を言われたわけでもない。

自分が自分に対して抱いていた幻想や

自分から他人に対しての期待が大きすぎて

自分と対象物が噛み合わなかった時、

そのギャップに酷く落ち込んでしまっただけだ。

自爆というものなのだと思う。

自分の中に何かが生まれた。

それは私のことを深く考えて強く思ってくれている人がいるから。

結局それは机上の空論だったみたいだ。

< 119 / 310 >

この作品をシェア

pagetop