7歳の侯爵夫人
「見せてごらん?コニー。薬を塗ってあげるよ」
オレリアンは妻の爪先をハンカチで拭い、懐から塗り薬を取り出す。
騎士であるオレリアンは塗り薬を常備してはいるが、最近は特に、こうして妻がちょこちょこ切り傷を作るものだから、常に携帯しているのだ。

「くすぐったい!」
「こらコニー、じっとして」
「くすぐったいってば!オレール!」
「全く…、このお姫様は10秒とじっとしていられないのか?」
「もう!子供扱いばっかりして!私が子供っぽいからオレールは奥さんとして見てくれないの?」
「そんなことないよ。俺の可愛い奥さん」
「ほら、子供扱いしてる。最近はずいぶん大人になったってみんな言ってくれるんだから。ゾフィ先生だってね、びっくりするほど覚えがいいって褒めてくれるのよ?もうお勉強だってすごく進んでるんだから」

ゾフィ先生というのはヒース領に来てからコンスタンスのために雇った家庭教師だ。
マナーや常識、簡単な勉強を教えてくれている。

「進んだって、どのくらい?」
「えーとね、12歳くらいかしら」
「そうか。じゃあ12歳の淑女だな」
そう言うと、オレリアンはコンスタンスの白い足先に口付けた。

「キャァ!そんなところ汚いわ!」
「ハハッ、俺のお姫様に汚いところなんてないよ」

いつまでもイチャイチャする2人に呆れたような目を向け、リアはさらに離れた。
そしてそのさらに離れた場所からは、ダレルも苦笑して眺めている。

「記憶が戻ったら…、私は大人に戻れるのよね?そうしたらオレールは、私をちゃんと奥様扱いしてくれるの?」
コテンと首を傾げて夫を見上げるコンスタンスに、オレリアンはハッと胸を衝かれた。
そして妻を見つめると、優しくその髪を撫でた。
「いや…、記憶があってもなくても、コニーは俺の大事な奥様だよ」

その自分を見つめる夫の瞳はとても優しいけれど、少し悲しげに見えるのはなんでだろう…、とコンスタンスは思った。
そしてなんだか切なくなって、夫の首に抱きついた。
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