異世界で先生になりました~ちびっこに癒されているので聖女待遇なんて必要ありませんっ!~

異世界


とりあえず落ち着こう。

これでも私は、職場の先生方から年の割に周りを良く見て冷静に判断ができる、とお褒め頂いている。

周りを良く見て……

見渡す限り、見事な花が咲き乱れる庭園があった。

「ふた口しか呑んでないけど……酔ったかな?」

目をつぶって十数える。

そっと目を開けると……暖かな陽射しの中咲く、色とりどりの花達と、それに相応しい豪邸が少し先に見えた。

何故だ。

室内が屋外になり、夜が昼)になっている。

クラクラする頭を押さえながらあれこれ考えていると、不意に近くから物音がした。

反射的に音のした方を見ると

そこには、お人形のような美少女がいた。

ふわふわと波打つ、肩口で切り揃えられた金髪

ぱっちりとした大きな瞳は、澄んだ青空のような明るい青。――明らかに、日本人ではない。

「えっ!? えくすきゅーずみー?」とりあえず英語で話しかけてみる。

と言うか、よく考えれば私ってば、不法侵入じゃない!?

「あ、怪しい者じゃ、アリまセーン!」

日本人て、どうして咄嗟の時にこうなっちゃうんだろうね……。怪しさ満点な上に、英語まで崩れた。

だらだらと冷や汗が流れるのを感じながら固まると、美少女が口を開いた。

「おねぇちゃん、だれ?」

まさかの日本語。

そうか、バイリンガルか!

言葉が通じるなら何とかなるかもしれない!

勇気が湧いた私は、怖がらせないよう少しだけ距離を縮め、しゃがんで目線を合わせる。

「えーと、私は、和泉瑠璃です。ちょっと迷子になっちゃったみたいで……。ここ、あなたのおうち?」

笑顔だって忘れない。

「まいご……」

女の子はそう私の言葉を繰り返すと、くるりと後ろを向いて指をさす。

「あっち。来て」

誘われるがままに手を取り、繋いで歩いていくと、女の子の家と見られる豪邸が近付いてきた。

すると、玄関から少年が駆け寄ってきた。

「リーナ! 探したよ、何処に行って……」

少年は焦った様子だったが、手を繋ぐ私達を見て目を丸くして立ち止まった。

「あ、ごめんなさい。私、道に迷ってしまって……。この子、妹さん? 案内してもらったの」

何故か私の話を聞いてさらに固まった。

……それにしても、この子もすごい美少年。六?七歳くらいだろうか?

女の子と似た色合いと相貌で、瞳は紺碧だ。利発そうな顔をしている。

そしてこちらもバイリンガル。

将来は間違いなくモテモテだろう。

まあ、もうすでに、かもしれないが。

「いえ、こちらこそ妹と一緒にいて下さって、ありがとうございました。……あの、貴女は……」

暢気な事を考えていると、ニコリと人好きのする笑顔で少年が話し掛けてくれた。

愛想も良いとはますます有望である。

「和泉瑠璃といいます。リーナちゃん、だっけ。ありがとうね、ここまで連れて来てくれて」

「ううん。中、入る?」

うっ、美少女の上目遣いの破壊力よ!!

慌てて目を逸らすと、兄は先程以上に目を見開いていた。

「お……どろいたな。まさかリーナがこんなに……」こんなに?

無防備、とか?

「改めまして、僕はレイモンド=ラピスラズリ。ラピスラズリ侯爵家の嫡男です。どうぞレイ、と。イズミ様、とお呼びしても?」

「あ、どうもご丁寧に……。あの、様なんていりませんよ? あと、和泉は姓なので、瑠璃でいいです」

「では、ルリ様と」

わー、いらないって言ってるのに丁寧だわー。そして笑顔が眩しい。

って、ちょっと待って。今、侯爵家って言った?

そんなの、現代の日本にはない身分制度よね?

しかも何、この内装…まるで中世のヨーロッパみたい。

よく見れば、リーナちゃんとレイ君も、シンプルだが高そうなドレスと、シャツにパンツ姿だ。

どう考えても、現代日本ではない気がする。もしかして、過去のヨーロッパ?

それか私が知らないだけで、まだ身分制度のある国の何処か? でも言葉は通じてるし……。

「あの、ちなみになんだけど……ここは何処かな? 東京? 大阪? あ、名古屋とか? もしかして、ヨーロッパのどこか?」

「? あの……不勉強ですみません。聞いたことのない地名? 国名? ばかりで……。ここは、アレキサンドライト王国の王都にある、ラピスラズリ邸です。」

これは、間違いない。私ってば……異世界転移、しちゃってるー!?

< 3 / 20 >

この作品をシェア

pagetop