花筏に沈む恋とぬいぐるみ



 「花ちゃん、テディベア作ってみる?」
 「え!?わ、私、出来ないの。編み物だったら出来るけど縫い物とかは苦手で」
 「編み物出来るの?」
 「えぇ……レース編みが好きで」
 「花のレース編みはとても上手で妻のストールやブックカバー、テーブルクロスなんかも作っていてね。文化祭ではかなり売り上げていたんだよ」
 「お、お父様。それは昔の話で……」


 昔を懐かしみながら、父の言葉が弾む。
 娘である花の自慢話を始めると、父は止まらなくなってしまうのだ。それぐらいに誇らしくしてくれるのは嬉しいが、パーティーなどで止まらなくなってしまう父親の横で恥ずかしくなる、という事が多々あったのを思い出し、花は苦笑してしまう。


 「レース編みの洋服はやってみたかったんだけど、どうも難しくてね……。もしよかったら、作ってくれないかな?もちろん、お金は払うよ」
 「でも、小さな洋服なんて作ったことない」
 「時間があるときでいいから考えてみない?花ちゃんが好きなことなら、ぜひ。趣味としてやってくれてもいいから。興味はあるかな?」
 「きょ、興味はある」
 「そっか。じゃあ、型紙とか教えるよ」


 凛はそういうと、左側の棚から型紙を取り、説明をしてくれる。花はそれに目を注ぎ彼の話を聞く。

 フッと後を向くと、床に置かれてあった段ボールの上に父親と凛のテディベアが並んで座って何かを話していた。父の表情はわからない。けれど、明るい雰囲気を感じられ、きっと変わらない穏やかな表情をしているのだろうな、と思った。






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