10月初旬。

肌寒さに秋を感じさせる。パンツスーツに身を包み、パンプスをカツカツと鳴らしてオフィス街を歩く。私は就活に終止符を打ち、ある中規模の水産加工会社に入社することが決まった。

今日はその会社の内定式があるのだ。駅を出てから歩いて15分ほど。雑居ビルが立ち並ぶオフィス街の中に、その会社のビルがある。内定式では、内定者たちがひとつのホールに集まり、内定授与式、社長や人事部の挨拶、事業内容の説明などが行われた。内定式の中で何人かと話をすることができた。また、昼食会では社員の人たちとも交流することもできた。

来年、この人たちと働くのか…。来年はいよいよ社会人。ドキドキである。


 内定式の帰り道、信号を待っていると、ふと後ろの方で聞き覚えのある声が聞こえてきた。電話口での声のようだ。この感じ、既視感がある。低音で、深みのある、穏やかな声…。

振り返ると見覚えのある長身が颯爽と歩いていくのが見えた。私はその人の名前を呼んだ。その人はまだ電話中で私の声に気づかない。私は追いかけた。思いのほか歩調が速く、雑踏にまぎれてしまいそうになる。彼は電話を切り、きょろきょろとあたりを見渡した。


「西島さん」


 彼が私の声に振り向く。彼は目を見開いて、私の顔をまじまじと見た。