とある企業の恋愛事情 -ある社長秘書とコンビニ店員の場合-
 次の日、コンビニに行くと立花がいた。

 立花も俊介に気付いたのか、顔を見ると会釈した。俊介がレジまで行くと、彼女はもう一度ペコリと頭を下げた。

「昨日は、美味しいお菓子をありがとうございました」

「いえ、突然押し付けてしまってすみません」

「休憩時間に同僚と二人でいただきました。同僚も、とても喜んでいました」

「よかったです。俺も助かりました」

 短い会話を終えて俊介はレジを後にした。

 一体どんな焼き菓子だったのだろうか。また今度加賀屋の店員に感想を聞かれたときに困るから聞いておけばよかったかもしれない。

 

 それから、俊介がコンビニに行く頻度が少し多くなった。多くなったと言っても、ランチの時間に行くようになっただけだ。聖とランチに行くことが減った分、必然的にコンビニ食が増えた。

 あの女性店員────「立花さん」はほぼ毎日コンビニで働いているようだった。

 彼女は特別明るいわけでも優れた接客をするわけでもないが、なぜか目に留まる。恐らく、整った容姿のせいだろう。俊介は何度かコンビニを利用したが、コンビニの利用客は男の方が多いように思えた。

 俊介は挨拶する程度だったが、男性社員の多くは雑談することも多いようだ。

 コンビニから出ると、男性社員が彼女のことを「クールビューティ」と言っていた。確かに「立花さん」はクールビューティーっぽい雰囲気だ。言葉少なであまり喋らないし、笑顔は控えめで愛想がいいわけではない。

 ────ああいう淡白な子が最近は人気なのか。

 俊介はふと自分のタイプについて考えてみた。だが、まったく思いつかなかった。

 長い間聖のことばかり見てきたからか、好みの女性が思い浮かばない。聖のようにしっかり者なのに守りたくなるようなタイプが好きかと言われればそうではない。聖の場合、聖だったから好きだったのだろう。

 じゃあ他の女性はと言われると、まるで分からなかった。

 職場には女性がたくさんいるし、きれいで可愛い人もいるが、誰もピンと来ない。

 これはいよいよマズいな、と思いながら美人の受付嬢をチラリと眺めたが、なんとも思わなかった。

 仕事人間でいる間に男としての本能はどこかへ行ってしまったのだろうか。俊介は悩むばかりだった。
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