エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。

 そんなことさせるかと、すかさず割って入った私の声は、かぶせ気味に放たれた窪塚の声によって、無残にも掻き消されてしまうこととなった。

「ちょっと、パパッ! なに勝手なーー」
「はい。そうさせていただくつもりです」

 まさか、窪塚の口から、そんな言葉が出てくるなんて。ただただショックでしかなかった。

 ーーそんな簡単に、約束できちゃうほどの想いでしかないっていうこと?

 ショックのあまり、目の前が真っ暗になって。

 ーーこれって夢だよね? そうだよね?

 胸の内で必死になってそう自分に言い聞かせて、現実逃避をはかっていた私の耳に、続けざまに放たれた窪塚の揺るぎない強い意志のこもった声が届いたことで、皮肉にも、ようやくこれが現実なのだと思い知ることとなってしまったのだった。

「その代わり。今回のことで鈴さんを責めたり、見合いをさせたりしないと、今ここで約束してください。約束して頂けるのなら。職場では無理ですが。プライベートでは、もう二度と鈴さんには近づきません。だからどうかお願いします」
「君がそこまでいうのなら、約束するよ。もちろん仕事に関してまで口を出すつもりはない」
「ありがとうございます」
「えっ? ちょっと、何勝手ーー」
「ちょっと、隼。そこまでしなくーー」

 そうして、夢から覚めるかの如く我を取り戻し、二人に異議を唱えようとした私と母の声を邪魔でもするかのように、突如窪塚が所持していたスマートフォンのけたたましい着信音が鳴り響き。

 それがまた運悪く、病院からの呼び出しだったために、電話対応のあと、父に向けて改めて今一度深々と頭を下げた窪塚は、隣で茫然自失状態に陥ってしまっている私には視線も声も一切向けることなく。

「失礼しました。職場からの呼び出しでしたので。これで失礼させていただきます」

 それだけ言い残すと、一度も振り返ることなくこの場から立ち去ってしまったのだった。
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