恋愛タイムカプセル
episode 4.それはカブトムシと時々花火。罪と甘い蜜。
私は悶々としながらベッドに寝転んでスマホの画面を見つめた。画面には簡潔に「いいよ」と文字が書かれている。花火大会のお誘いの返事だ。

 短い文章なのにこんなに私を驚かせるなんて────。私はベッドの上で転げ回った。誘っておいて今更恥ずかしさがこみ上げてくる。

 誘ったところで楽しくないに決まっている。花火大会に行って、一体何をしろというのだろう。仲良く並んで花火を見て、綺麗だね、なんて陳腐な感想を言えとでもいうのだろうか。あのダサ王子と?

 冷静になりなさい、と現実を突きつけてみるものの私の中にある感情は拒絶にはなりきらない。だからますます困った。

 まだ子供の頃、地区の花火大会に行った時に彼の姿を見たことがある。しかし、彼との花火の思い出は一方的なもので、直接的ではない。

 なぜ彼を誘ってしまったのだろう。断られなかったからよかったものの、もし断られたら王子様に二度も振られたなんて汚名を着せられてしまうところだった。



 結局、会社のバーベキューパーティは行かないと返事した。他の人は大方行くらしいが、私は肉よりも大事な用事が出来てしまった。

 由香だけはニヤニヤしていたけれど、欠席理由は教えなかった。だって、花火大会の結果がどうなるかもわからないのだから。

 私はその日まで図書館に行くことを控えた。行ってもよかったが、なんとなく花火大会の新鮮さが失われるような気がして行けなかった。今更、私たちの間に新鮮味なんてないと思うが、しょっちゅう会っていたのでは雰囲気が出ない。

 連絡も我慢に我慢を重ねていたので、ようやくギリギリになって、彼から待ち合わせ場所と時間の連絡が来た。

 私はその日仕事がある。終わったらそのまま花火大会に行くため、浴衣を着付けている時間はない。それに、浴衣も持っていないし、気合いを入れてきたと思われるのは嫌だった。

 私はあくまでも、「同級生とちょっと会って話している」ていで行きたかった。そのほうが彼と自然に話せるからだ。

 花火大会に誘う私を彼はどう思っただろうか。まだ俺に気があるのか、身の程知らず────。それとも、嬉しいと思ってくれているだろうか。
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