13番目の恋人
「わ」
「おっと」

誰かとぶつかりかけて、慌てて謝罪した。

「す、すみません」
「いや、あ……また君か。申し訳ない」

あ……室長……
挨拶がまだだった事に気付き、慌てて言った。

「すみません! 室長、私、ご挨拶もまだで。えっと、秘書室の香坂と申します」
非礼も被せて深々と礼をした。

「え、今?」
は、ほ、ほんとだ。
「す、すみません、ずっとご挨拶しなければと思っていたものですから」

もう一度深々と、あせあせと、二度目も深々と、礼をすると、手に持っていた書類一式がバサーッと、つるつるの廊下を滑っていった。

「ふ、大丈夫? こちらこそ、宜しくお願いします」

彼が書類を拾おうとしてくれた事に、更に慌てて
「わ、私が自分で、も、申し訳ありません」
最後の一枚。拾おうとした手がぶつかる。慌てて引っ込めたもので、今度は私の頭が彼の顎にヒットした。

「いっ」
「わぁ、も、申し訳ございません、だ、大丈夫ですか?」
慌てて彼の顔を覗きこんだ。

「ふは、ははは! 秘書課の香坂さん、落ち着いた人だって聞いてたんだけどね、ずっとバタバタしてるね」
目があって、今度は顔が熱くなって、動けなくなった。

「ああ、ごめん、大丈夫。はい」
そう言って結局最後の一枚も彼が拾ってくれた。書類に目を落とした彼が、そのまま止まった。そして、彼はみるみる眉根を寄せる。
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