13番目の恋人
──後日。常務室で二人になった際

「そうだ、小百合、これ……」
そう言って、俊くんから一枚の紙を渡された。部署と氏名だけが書かれている。

「何ですか、これ……」
そうだ、これから私は俊くんとは敬語で話そう。

「小百合の相手でも大丈夫な男のリスト」
「ふぇ?」もうさっそく駄目だ。
 いや、リスト……?

「自然な出会いっていっても、だな。お前は男に免疫がないだろう? その、何だ。お前はちょっと……そんな見た目だし、変な男にそそのかされては困る。人柄とか、家柄とか簡単に言うと、お前が惚れても大丈夫な奴! 既婚者と恋人のいる男は除いてる」
「……ねえ、これ……調べたの?」
「まあ……な」
「……それと、『そんな見た目』ってどういう事でしょう?」

私がリストから目を離して、俊くんを見上げると、俊くんはわかりやすく目を泳がせた。

「可愛いだろ……」
少し、照れ臭そうに、ぼそりと言う。

「……へぇ、じゃあ、あのまま俊くんが引き取ってくれたら良かったのに」

言うつもりの無かった言葉がポロリと出てしまって、俊くんはおかしそうに肩を震わせた。

「……確かにね、ははっ、可愛いかったなぁ。もちろん、今も可愛いぞ」

ああ、もう全く相手にされていない。わかっていたけれど、もう何年も前から。

こうやってぷうっと頬を膨らませたりするから、余計子供扱いされるのだろうけれど。俊くんは私の頭をポンポンと優しく撫でて

「それ、よく目を通して、自然な出会いを楽しめよ」そう言った。
「あ、それ社内秘だからな」
「もう、どころじゃないでしょ!?」私内秘だ。

「小百合の幸せを願ってる」
「うん、ありがとう」

複雑な想いを胸に、常務室を出た。
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