信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています

 久保田のもたらした情報によると、昨日、土砂崩れの現場近くで
彩夏の車を含め何台か立ち往生していたらしい。

 前にも後ろにも進めず、数時間は車から出られない状況が続いたようだ。
雨が小止みになってから同じ状況下にいた何人かで集まり相談しているうち、
同じように止まっていた車の中に病人がいる事が分かった。
独りで軽自動車を運転していた年配の女性だ。
雨で冷え、狭い車の中でじっとしているのは老体に良くなかったのだろう。

 彩夏は人間の医者ではないが、救助が来るまでその年配の女性を看病した。
水分を取らせたり、身体をマッサージしたりして落ち着かせようと努めた。
やっと夕方に道路が開通し救急車が来たが、心細いからと老女に求められるまま
同乗して病院まで付き添った。
老女の家族には大層感謝されたが、久保田は久しぶりに彩夏に雷を落とした。
彼女の車が無人で現場に残されてしまった事で、今回の騒動になったのだ。

 彩夏はまる一日、牧場に連絡出来なかった事をひたすら謝った。
帰宅してから皆に詫びると、久保田に約束させられてしまった。
そこまで大騒動になっていたとは彼女自身、思ってもいなかった。
久保田家なら一晩くらい駆を預けられると安心し過ぎていたのだ。
たっぷり叱られた後、久保田と相談して明日車を回収してから牧場に帰る事に決めた。


 その連絡を受けた樹は、自分が森下家にいるべきか迷ったが、
結局、彩夏が帰宅するのをこのまま泊まって待つ事にした。
真由美や江本も、是非にと引き止めてくれたのが心強かった。

 2年ぶりに、別れた夫としてか、駆の父親としてか、
どんな顔で会うべきなのかは分からなかったが、
彼女の無事を自身の目で確かめずにはいられなかったのだ。



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