信じてもらえないかもしれませんが… あなたを愛しています

 日没の頃、やっと久保田から連絡があった。
彩夏は無事だった。久保田たちが、彩夏の姿をその目で確認したらしい。

 森下家のリビングに集まっていたメンバーから安堵の声が上がった。
彩夏が元気でいた事がわかり、江本や真由美たち女性陣は泣き崩れている。
金子俊一も樹の手を取って、無事を喜んでくれた。

「良かった、良かった~っ!」

樹は知らないうちに涙を溢していたらしい。
金子にティッシュの箱を渡されるまで気付きもしなかった。

「樹君、今度こそ、さやちゃんを頼むよ。」
「俊一…いや…彼女が許してくれるかどうか…。」
「そんな弱気じゃダメだよ!」
「ああ…。」

「何が何でも、押して押しまくれ!」

周りの声にかき消されない様、俊一は大声で樹に迫った。

「彼女を幸せにして欲しいんだ。二度と泣かせるな!」
「精一杯、努力する。」

 俊一は苦笑いした。
その答えが、樹に言える最上の言葉だと知っていたから。
樹は幼い頃から、出来ない約束はしない子だった。
虫取りも、可能な数だけ挑戦した。
取れるはずのない種類や数を口に出したりはしない。
プールで泳ぐときも、キチンと一時間おきに休憩を取り、
その日の目標距離まで全力で泳ぎ切る子だった。

 子供らしくないと言えばらしくないが、
いずれ会社を受け継ぐ覚悟のようなものが感じられる子だった。

 彩夏に出会ったあの日も、慰める言葉はなかったが、
彩夏が何より必要としていたぬくもりを、手を繋ぐ事で与えたのは樹だった。
どんな言葉より確実に、彩夏を見守っていたのだ。




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