導かれて、放れられない
こちらからはソファの背もたれしか見えない為、天聖も背を向けている。
「若、お連れしました」
増見が声をかけると、天聖がこちらを向いた。

「あ……」
天聖は桔梗の姿を認めると、真っ直ぐ桔梗の元へ来てレストランの時のように、力強く抱き締めた。
そして桔梗もまた、天聖に必死にしがみついた。

目が熱くなってくる。
桔梗は次第に目が潤み、涙が溢れていた。

「もう二度と……放さねぇ……
放さないから……!」

天聖は一度、腕を緩めて桔梗の顔を覗き込んだ。
頬を両手で包み込み、親指で桔梗の涙を拭って口唇をなぞった。
自然と目を瞑る、桔梗。
二人の口唇が重なる。
二人とも、口唇が震えていた。
更に涙が伝う、桔梗。

キスをするだけで、こんなに愛しくて苦しい。

これを運命以外に、何と言えばいいのだろう。

「ンンン……」
なかなか口唇が離せない。
「ごめんね…なかなか離せなくて……」
「いえ…」
「電話……ありがとう」
「え?」
「名刺見て、びっくりしただろ?
後から後悔した。
俺のこと知って、躊躇するんじゃないかって!」
「あ、実は少しだけ躊躇しました」
「だよな…」
「でも……」
「ん?」
「それよりも…会いたかったから……!」
「そっか。俺も会いたかった。
……………ねぇ、名前聞いていい?」
桔梗をソファに促し、隣に身体ごと向けて座った天聖。
桔梗の手を、両手で包んで話しかけた。

「あ、水田 桔梗です」
「桔梗…可愛い名前」
「あの、西尾さんも━━━━」
「天聖」
「へ?」

「俺のことも“天聖”って呼んで?」

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