意地悪な副社長との素直な恋の始め方
変わらないものは、愛ではなくて


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『Sホテル XXXX号室 十九時』


終業間際に突然の来客があって手間取り、三十分ほど残業。
ようやく引き上げた更衣室でチェックしたスマホには、ホテル名と部屋番号、時間だけが記された短いメッセージが届いていた。

現在、十八時半。
急いで化粧を直して向かったとしても、ぎりぎり間に合うかどうか。


(なんで、今日に限って十九時なんて早い時間なのよ! 仕事はどうしたのよ? しかも……遠いし!)


指定された場所は、五つ先の駅近くにあるラグジュアリーホテル。
『YU-KIホールディングス』傘下で、昨年「特別な日に利用したい」ナンバーワンに輝いた人気のホテルだ。


(いつも、敵情視察を兼ねて、ライバル企業の経営するホテルを利用しているのに……どういう風の吹き回し?)


恋人同士ならテンションも上がるだろうけれど、セフレ同士で利用するには場ちがい感が否めない。


(ま、わたしに選択権はないんだけど)


どこで、いつ会うかは、いつも朔哉が一方的に決めていた。
彼の方が忙しくて、わたしの方が断然暇だから、というのが主な理由だ。

けれど、夕城の家を出て以来、わたしから彼に「会いたい」と連絡したことは一度もなかった。
そもそも、彼の誘いを断りたい時には、連絡がつかないようスマホの電源は落としている。

毎年、今日という日――わたしの誕生日には、必ずそうしていたのだけれど、海外出張中ということですっかり油断していた。

いまからでも適当な理由をつけて断りたいが、昼間の様子からして、そんなことをすればあとでどんな目に遭わされるかわかったものではない。

被害を最小限に抑えるには、要求を呑むのが一番賢い対処法だと学んでいる。



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