仮面の貴公子は不器用令嬢に愛を乞う

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窓の外を険しい顔で見つめている皇帝。
被害者三人は夜の街を出歩いていた庶民の女性。共通点といえば禁止されている売春行為を影でしていたという点のみ。売春自体許しがたい行為ではあるが、だからといって殺されていい理由にはならない。
平和を愛し民を愛する皇帝は殺人犯が今ものうのうとこの街を闊歩ていると思うと腸が煮えくり返る思いがした。
しかも殺人犯はユーリスに似せた格好をしている。あの男がそんなことを断じてするわけがない。
「馬鹿な話だ。黒髪に白い仮面をした男が殺人?偶然にしては似すぎている。ユーリスを知っている者の犯行だとすれば明らかにユーリスを貶めようとしているのは確かだろう」
憤慨する皇帝はドカッと自分の椅子に座り腕を組んで険しい顔をする。
その前に立ったスペンサー侯爵も眉根にしわを寄せる。
「なんのために? というのは愚問でしたかな」
「私のせいか? ユーリスを贔屓にしていたツケか?」
「少なくとも面白くないと思っている輩はいるでしょう。今回の件で噂が真実味を帯びてくればユーリスを糾弾する材料ができ今の地位を引きずり下ろすこともできるというわけです。現にユーリスに事情を聴きたいと帝国警察から要請が来てます」
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