世間では黒髪の仮面の男が殺人を侵す事件が起きていた。
その仮面はユーリスとそっくりだという。徐々に大きくなる噂は鈍感なフローラにも伝わってきた。
フローラだけでなく、ベリル執事はじめヒルト家使用人たちも一様にユーリスを心配していたのだが、ユーリス自身は静観の構えで何事もないように日常を過ごしている。
もちろんユーリスがそんなことをするわけないと信じているフローラはユーリスが気にしてないのならばと話題に出すことはせずいつものようにふたりの時間を大切にしていた。

淑女教育をしているアリエラ皇女は食後一時間ほどお昼寝をするのでその時間を見計らっていつもユーリスと中庭で待ち合わせていた。
フローラはいつものように木陰で待っていると知らない男性に声を掛けられた。
「フローラ嬢、少しお話をよろしいですかな?」
「あの?」
「失礼、私はジェームズバリモアと申します。バリモア公爵の息子と言えばわかりますかな?」
「はあ……」
貴族階級に疎いフローラはバリモア公爵と聞けば誰もが平伏するほど大物貴族だということを知らないので返事に困った。
しかし無視するわけにもいかずに笑顔で淑女の礼をする。
「ヒルト伯爵の件でお話ししたいことが。あなたは巷で白い仮面の男が殺人事件を起こしていることはご存じですか?」
「……ええ」
ユーリスには関係ないことだが、女性たちが命を落としていることは気の毒でどんなに怖く無念だっただろうと思うと胸が痛い。早く解決してほしい事件だ。
暗い顔をして返事をしたフローラにジェームズは一歩前へ出て訴えてきた。
「その件でヒルト伯爵が帝国警察に事情聴取されてることは?」
「え?」
さすがにそれは知らなかったフローラが声を上げると得意満面な顔をしたジェームズが更に一歩前へ出た。