「やはり、あなたは知らされていないのですね?婚約者のあなたに黙っているとは、やはりヒルト伯爵は信用ならない。私は奴が犯人だと睨んでいるのです。あなたは奴のおぞましい素顔も見ていないのでしょう?あれのせいでやつは女性から恐れられ何度も婚約が破談になった。誰があんな醜い悪魔のような男と結婚したいものか!」
吐き捨てるように言ったジェームズの顔は険しく歪み、憎しみが籠もっているような瞳は濁って見えてフローラはなにも言えず背筋が氷った。
「だが奴はそれを逆恨みしてるんだ。恨みを晴らすために女とあらば殺しているに違いない。このままではあなたも殺されてしまう、即刻婚約は解消し逃げた方がいい」
矢継ぎ早に言われて後退りしたフローラは目を丸くして唖然とした。
「……なにを、おっしゃっているの?」
絞り出すように出た声は震えている。ユーリスに似た格好の殺人犯がいるのはわかっていてもそれがユーリスだなんて絶対ない。なのにこのジェームズは見た目を罵りユーリスだと決めつけているのだ。それに怒りが湧いてくる。
「ユーリスさまは犯人なんかじゃありません!ユーリスさまは優しくて誠実な方です。そのようなことをするわけないじゃありませんか! 」
キッとジェームズを睨み毅然な態度をとると、ジェームズは大人しそうに見えたフローラが激昂したことに驚き体を引いた。

(おかしい、こんなはずじゃなかった)
普通の令嬢ならば、怖くなり涙目で「ジェームズさまどうしましょう私怖い」と助けを求めてくるはずだ。
そこに「大丈夫ですよ、私が守ってあげます」と抱き寄せ、まんまとユーリスからフローラを奪う算段だったのにアテが外れた。
なんて気の強い女なんだ。
バツが悪くなったジェームズは顔を歪める。