囚われて、逃げられない
加速する
「はぁはぁ…苦し……」
「課長、資料の確認を━━━━━
大丈夫ですか!?」
「うん…そこ、置いといて…」
「はい…」

「野々…早く帰ってきて?息苦しいよ……」
「ただいま、泰氏くん」
「あ…野々!おかえり!」
すると、スッと落ち着いた泰氏の息切れ。

周りの社員達は、いつもこの変わりようにびっくりして見ているのだ。

「今日、久しぶりにバーに寄ろうか?」
その日の帰りに泰氏が声をかけた。
「うん、紅茶飲みたい!」

マンションに着き、エレベーターに乗り込む。
ニコニコしてエレベーターの文字盤を見る野々花。
そんな姿を微笑ましく見る、泰氏。

野々ってどうして、こんなに可愛いんだろう。
あぁ、この野々の目に映るものが俺だけだったらいいなぁ。
そう思った泰氏は、文字盤を見上げる野々花の前にスッと顔を出した。

「わっ!び、びっくりしたぁ!どうしたの?泰氏くん」
「ううん。野々は今、何考えてた?」
「ん?泰氏くんと初めてバーに行った時のこと考えてたよ!」
「そう」
「泰氏くんの煙草を吸う姿とか、紅茶を美味しいねって飲む姿とか、告白したなぁとか…」
「フフ…そうだね!」

バーに着き、中に入る。
「いらっしゃいませ、光永様、山道様」
そう言って、奥の個室を開けるバーテン。

「野々、どうぞ?」
泰氏が野々花の腰を支え、中に促す。
ソファに座ると、泰氏が横にぴったりくっついて座った。
「野々は、紅茶だよね?」
「うん!」
「じゃあ…俺は…やっぱワインだな!」
「フフ…泰氏くんは、ワイン好きだよね!」

「うん、だってワインって“血”みたいでしょ?」
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