Your PrincessⅡ
5.渚の秘密
 もとは、ある島に住んでいた海の一族。
 魚を取って平和に暮らしていた。
 だが、他国の人間がその島に侵入し占領してしまった。
 海の一族は土地を奪われ、世界中を旅しながら生活していたという。
 安住の地を求めて、彼らは旅をした。
 そして、渚の祖父の代の時に。
 このティルレット王国にやってきて。
 当時の国王と、ある約束をして土地を与えられた。

 それから、海の一族はティルレット王国の海沿いで暮らし始めた。
 漁業を生業として、暮らし始めた。
 だが、安住の地を手に入れたとはいえ、一族としての生計は徐々に崩れつつあった。
 海の一族として抜けるものだっていたし、
 若い男達は、漁業の仕事を嫌がって都市部へ出稼ぎに行く者もいた。

 渚の父の代には、海の一族は少数民族となり果てていた。
 渚が幼少の頃、渚の父は「都市部へ行ったほうが稼げる」と言って出て行ってしまった。
 渚の母は海の一族であることを誇りに思い、都市部には行かず集落に住み続けていた。

 ここ10年ほど若い衆はすっかりと減ってしまい、
 それと同時に恐れているのは純粋な海の一族を引く子供が皆、女だということだった。
 渚はここ10年の中で生まれた唯一の男の子で。
 黒い瞳を持った男の子だということだった。
「黒い瞳を持った男は、海の一族のリーダーとなる存在だ」
 渚を見るたびに、集落で一番偉いオババが言った。
 オババは80歳を超える集落で唯一の祈祷師だった。

 次期、村長。
 この海の一族の頂点となる存在。
 生まれた時からずっと言われてきた渚。
 それを当たり前だと思ってきた渚。
 海の側で生まれ、9歳までずっと海と一緒に生きてきた渚。
 物心ついたときには誰に教わることもなく泳げていたという。

 ただ、9歳になった渚にとって。
 ある程度の世間の様子を理解した頃。
 何故、自分は海の一族で生まれた時からリーダーにならなければならないのかという疑問が生じた。
 砂で家を作ってみたり、絵を描くのが好きだった渚にとって、
 リーダーとは何かと考えるようになった。
「あんたは、偉くなるんだから、しっかりとしなさい」
 いつしか、耳にタコが出来るくらい母親に言われる言葉。
「偉くなる」から何だっていうのだろう?

 船に乗って魚を取るよりも、海岸で、ゆっくりと絵を描くほうが楽しい。
 砂で何か造形物を作っているほうが尚、楽しい。
 やかましく言ってくる母の存在にうんざりした渚は、よくオババの家に泊まりに行ったものだ。
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