【短】アイ・ビー・ト
高橋って苗字は、別段めずらしくない。
全国で3番目に多いらしいし。
ただ、ここらじゃ、「高橋」といえば俺。
そこそこ名の知れた、悪ガキどもの王様。
まあ簡単に言っちゃえば、いわゆるヤンキーやってます。
でも見た目はヤンキーぽくなくて。
ピアスの数は少ないほうだし、ピンクの髪色は抜けてきた。長く伸びた髪はうしろに結って大人ぽい、はず。
一見、イケてるメンズじゃね?
「会ってみると、あんま悪い子って感じしないね」
ほらな。
どっちかっつうなら。
彼女のほうが、よっぽど、悪い顔して笑ってる。
腹の中で何を考えてるのか。
読めないまま、ジェルネイルの準備だけが淡々と進んでいく。
「ごめんね、さっきの嘘」
「はい?」
爪の消毒をしながら、突然、なんか言われた。
突然。ほんとに突然。
え……何を……ごめんって言われた? 嘘? は? 何が??
「会う前から悪い子ってイメージなくなってたよ」
「……え、」
「聞いたよ。店長のこと、助けてくれたんだって?」
あれは偶然だった。
ヤカラに絡まれてた人がいて、割って入っていったら。
絡まれてたのが、たまたま店長だったってだけの話。
そのときのお礼で、人気のこの店に来れたのだ。
「カッケーね」
くだけた言い方。
上からな笑い方。
なのに、手先は寸分たがわず繊細に紡いでいて。
あぁ、やられた、と思った。