【短】アイ・ビー・ト



「高3だっけ。2個下でそんなことできちゃうなんてすごいな。あたしには無理」

「こんなネイルできちゃうのに?」

「これは仕事だから。勤務外でヒトのためとか、やだやだ無理無理。自分のことで手一杯だって」



2個下……。

ハタチ、か。成人してんだ、この人。ふーん。



目線を真下にずらせば、やんちゃしすぎて原型からだいぶ崩れた、学ラン。

学校サボって来たから制服のまんまだ。


あーあ。

服、着替えてから来りゃよかった。



「……影野さんて、モテるでしょ」

「え、うん。それが?」

「否定しないんだ」



真っ黒いボブの髪がさらりと揺れる。


後悔。

わざと敬語を外した。



「君のほうがモテるんじゃない?」

「なんで」

「美人でかっこよくて、ちょいワルって、一番モテない? ちがう?」



太いまつ毛がちらりと向いた。


後悔。

わざと目をそらした。



「……モテねぇよ。俺、普段こんなんじゃねぇもん」

「それはなんとなくわかる」

「嘘」

「これは嘘じゃないよ。ずっとそんな感じだったら、ネイルなんかしに来ないでしょ」



濃いメイク。凛としたつり目。手入れの行き届いた指。淡い藍色のマニキュア。

どちらかといえば派手めな見た目の彼女に、ぜんぶ、やさしく見透かされる。



後悔。

彼女と会ってから、たぶん、ずっと。


俺はずっと後悔してるんだと思う。



「それとも、最近は男の子もネイルするの?」



次は彼女が、“わざと”の番だ。

お世辞にもきれいとは言えない、無骨な手の上で、薄紅がきれいに乗っていく。


情けな……。

素の俺を出すんじゃなかった。


オンナみたいな俺なら、きっと、まだオトナで、マシだった。




それでも心臓はドクンと軋んで。

もう遅いよ、と嗤ってるんだろう。



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