愛のない結婚をした人間なんて、きっとこの世には溢れている。
 仮面夫婦、政略結婚、跡継ぎのため……私たちは恐らく、その“よくいるドライな夫婦”の一組にすぎない。
 夫の家系は私の血筋が欲しくて、私の家系は夫の会社との繋がりが欲しい。すごくシンプルな関係性。
 もしかしたら、“愛”なんて形のない抽象的なものより、ずっと確かで、分かりやすいものなのかもしれない。
「最後に聞いておくが、本当にいいんだな」
「覚悟はとうに……決めております」
「“覚悟”ねぇ……」
 日本の大手財閥の跡取り、三鷹黎人(みたかれいと)は、片手でネクタイを緩めながら、組み敷いた私のことをベッドの上から見下ろしている。
 それから、肘あたりまで伸びている私の髪の毛を一束掴んで、「こんなに震えてるのに?」と、呆れたように言い放つと、パラッとつまらなさそうに髪の毛を私の裸体にばらまいた。
 それでも私は、目を逸らさずに、彼の瞳を見つめ続ける。自分の覚悟を知ってもらうために。
 切れ長の涼しげな瞳に、スッと通った日本人離れした鼻筋。本人から放たれる少し気怠げな空気感は、シャツ越しでも分かるほど美しい筋肉質な身体と合間って、なんとも言えない色気を醸し出している。
 そんな、芸能事務所が黙っていなさそうな容姿を兼ね備えた完璧人間の彼は、強気な私の顔を眺めてから、しばらく目を伏せて沈黙した。
 何も行為を始めない黎人さんを不思議に思い戸惑っていると、突然大きな手が自分の顔を包み込んで、予想外の言葉が降ってきた。
「結局、今日までにお前の本音を聞くことはできなかったな」
「え……?」
「そうだな、一回くらい、夫婦らしいことをしておこう。これから愛のないまま、一生を共にするのだから」
「れ、黎人さん……? あっ」
 冷たい瞳を向けられた直後、乱暴に脱がされかけていた服を剥ぎ取られた。
 そして、すぐに腰に手を回され、片手で簡単に抱き起こされると、向かい合わせに座った状態で彼は私の体をじっと眺めた。
 一気に羞恥心でいっぱいになり、私は思わず自分の胸を腕で隠したが、彼はそれを許さない。しかも、私は今ほとんど裸だというのに、彼はシャツ姿のまま一切服を脱ごうとしない。
 ーーこの人は、どうしたら私が恥ずかしがるのかを、全て知っているかのようだ。