図書館司書に溺愛を捧ぐ

そばにいたい

「涙は止まってきた?」

どれくらい泣いたのだろう。基紀さんから声をかけられた。

「うん……」

返事をするが急に恥ずかしくなって顔を上げられずにいた。
あんなに泣いて顔は化粧が落ちてグチャグチャだろう。
どうしたらいいのか基紀さんの胸に顔を埋めたまま悩んでいると、抱きしめたままでいた基紀さんが耳元で話しかけてきた。

「今日さ、紗夜ちゃんをあそこで助けられたことを神様に感謝するよ。あの頃の俺には何もしてあげられなかったし、紗夜ちゃんが泣いてもどうしてあげていいのかわからなかった。でも今日あいつらに紗夜ちゃんの苦しみを伝えることができてよかった。本人たちは分かってないところで傷ついている人がいるって分かってほしかった。自分たちだけの考えが正しいわけではなく、いろんな人がいるって押し付けないことを理解して欲しかったんだ。でもまさかあの頃のまま成長してるとは思わなかったけどな」

私は何も言い返せずにそのまま聞いていた。

「あいつら周りの目が気になったのかキョロキョロしてた。だからいじめてるって自覚もあったんじゃないか?でも紗夜ちゃんが言い返さないから調子に乗ってたんだろ。言い返さないからって寄ってたかってやっていいことではない。子供じゃないんだから分別がついてもいいはずだろ。けどプライドが高いんだろ?謝りもしなければ、俺のことを最後睨んでたよ」

「え?」

私はビックリして顔を上げた。

「睨んでたぞ、あいつら。この期に及んであの場で言われたことを恥ずかしく思ったのか逆ギレして睨んできた。すごい奴らだな」

「ごめんなさい。彼女たちの八つ当たりですよね。でも彼女たちは自分たちが悪いなんて思ってないの。話しかけたのにうまく返事をしない私が悪いの」

「返事ができないのは彼女たちが苦手だからだろ?無理に付き合うことはないはずだろ。向こうだって分かってるはずだよ。それを寄ってたかって来るのは違う。紗夜ちゃんは悪いことしてないんだから堂々としてろよ」

基紀さんに言われ、何だか心の中が整理された。
彼女たちと今後も付き合いたいとは思わない。もう大人なんだから一緒のクラスに行かなければならないわけでもない。
彼女たちを突っぱねてもいいんだ、と思った。
もう小学生じゃない。仲間はずれとか関係ない。
今の私には職場の友人も中学からの友達もいる。
あの子たちと関わらなくても問題はないんだ。
そう思ったらすっとつっかえてきたものが落ちた。
子供の頃から根底にあったものが整理されたんだと思った。
子供だったから抜け出せない一歩だった。
でも今は違う。
人見知りだったけど私は頑張ってきた。そんな自分を褒めてあげたいとさえ思ってきたんだもん。

「紗夜ちゃん、いい顔になってる。良かった」

私は大きく頷いた。

けど、思い出してしまった。

「ヤダ!泣きすぎて化粧落ちてるでしょ?」

「大丈夫。でも一度ここから動こうか。俺のマンションにいこう。なんなら部屋で一度鏡を見るかい?」

私は立ち上がらされ、手を引かれながら改札へと戻っていった。
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