スパダリ外交官からの攫われ婚


 そんな様子の彼女に構わず、機内のアナウンスが流れると加瀬(かせ)(こと)を連れて歩き出す。琴は強引な加瀬について行くので精いっぱいだった。
 荷物を受け取りさっさと空港から出た加瀬は、タクシーに乗り込んでドライバーに行き先を告げる。当たり前のようにフランス語を話す加瀬だが、琴は言葉が分からないことに一気に不安を感じ始める。

 思い切って攫われたは良いが、本当にこの場所で自分はやっていけるのだろうか? 外交官という仕事をしている加瀬が四六時中琴についていてくれるわけでもない。心配になって当たり前のことだった。

「心配しなくていい。今日あんたについてもらうスタッフも、家の事を任せている家政婦も日本人だ」

「そうなんですか、家政婦さんまで……」

 加瀬の言葉に一旦はホッとしたが、それでもまだ不安は拭いきれない。一人で外に出るときや仕事を探すにしても日本にいる時と同じようにはいかないだろう。
 そんな琴の悩みを全て分かっていたように、加瀬は……

「この近くのデパートには日本語をしゃべれる店員が何人もいる。仕事だってその気になれば探すことは出来るし、それも不安ならあんたは家で俺の帰りを待っててくれるだけでもいい」

 それくらいの稼ぎはある、と加瀬はそんな言葉で琴の不安を取り除こうとしてくれているようだった。


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