フォンダンショコラな恋人

見たことのないあなたも

翠咲は陽平が法廷に立つ姿を見たのは初めてだった。
左の席にいた陽平が裁判官に名前を呼ばれて返事をして、前に出る。

背筋をまっすぐに伸ばして淡々と事実を並べていくその姿が思いのほか、かっこよくて、なるほど、あのキャラもここでなら活かされる訳だ、と妙に納得したのだ。

翠咲が襲われた件は事件になり、現在はそれが裁判になっているところだ。

実を言えば翠咲は代理人を立てていた。
そもそも事件が起きたのは、偶然翠咲が担当者になってしまったからだけのことであり、他の担当者であれば、そちらに被害がいった可能性が考えられる、ということで会社で費用を出してくれて代理人を立ててもらったのだ。

陽平は可能なら自分がやりたかったと言っていたが当事者であればそれも難しい。

そんな訳で、今回は渡真利所長が翠咲の代理人になってくれている。

だから今日の公判については翠咲は傍聴人として参加しているのだ。

事件については証拠があるし、証人が何人もいるので罪をのがれることはできないが、量刑については『危害を加えるつもりはなかった』などと供述しており凶器がなかったことからも、軽くなりそうだ。

翠咲はそれで構わなかった。
< 219 / 231 >

この作品をシェア

pagetop