フォンダンショコラな恋人
逮捕されて、起訴されただけでもものすごくショックなことだろうと想像できたから。

翠咲の中ではどのような量刑であっても、異を唱えるつもりはない。
陽平にしても会社の人たちにしても、翠咲のことを守ってくれているのが良く分かっているからだ。

「これで判決も降りたし、完結ってことになるけれど、宝条さん、本当に民事の方はいいの?」
「実害はなかったですし、いいですよ」

それは陽平とも、話し合って決めたことだ。
会社は民事訴訟を起こしても構わないと言ってくれたけれど、正直、翠咲にはそこまでのこだわりはない。

陽平に民事訴訟についての、メリットやデメリットをしっかり説明してもらって、納得してそれはしないと決めた。

この件を引きずりたくなかった、ということも理由の一つだ。

陽平は引き受ければ、別件になるのでその分の稼ぎが当然に事務所に入るわけなのだけれど、翠咲がしないでおこうと思う、と言ったら、あの綺麗な顔で微笑んで、翠咲の頭を撫でてくれた。

「翠咲のしたいようで、いい。僕も正直いつまでも囚われて欲しくないよ。翠咲には僕のことを考えていて欲しい」
翠咲もその方が前向きでいい、と思ったのだ。



「渡真利所長、ありがとうございました」
法廷を出た翠咲はそう言って、渡真利にぺこりと頭を下げた。
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